HLRという考え方を思いついても、本当に計算できるかは分かりませんでした。
そこで私は、いきなり計算エンジンを作るのではなく、まず橋梁・建物・発電所を題材に「人的労働を積み上げる」という考え方そのものが使えそうかを手計算してみて試してみました。
今回は「こんな計算結果になった」という成果のご紹介ではなく、HLRの考え方を初めて現実の対象物に当てはめてみた時期の、開発記録です。
1.思いついた。でも、本当に計算できるのか?
HLRの基本的な発想は、とてもシンプルです。
インフラをつくり、維持し、最後に更新・撤去するまでには、さまざまな人の仕事が必要になります。それなら、その労働を「人年」という共通の単位に直して積み上げれば、
「このインフラを長期間支えるために、どれだけの人的労働が必要なのか」
を表せるのではないか。
考え方としては成立しそうでした。しかし、実際に数字にできるのかは別問題です。そこで最初にやったのが、とにかく一度、手で計算してみることでした。
2.まず橋を、一つずつ積み上げてみる
最初のモデルケースの一つとして、橋を考えてみました。
例えば橋の100年を考えてみたとき、
建設する。
完成後は点検する。
必要に応じて補修する。
何十年か経てば、大規模な修繕も行う。
やがて、更新や撤去も必要になる。
それぞれについて、何人が、どれくらいの期間働くのか。仮の条件を置きながら、人年へ換算して積み上げてみました。
ここでは、実際の計算結果を細かくご紹介することはしません。重要なのは、「労働を積み上げる」という考え方を、初めて具体的な計算にしてみたことです。
3.橋だけで成立しても意味がない
橋について計算してみると、次の疑問が出てきました。
これは「橋だから」できるだけではないのか?
そこで、対象を変えてみることにしました。
例えば、20階程度のオフィスビルです。設計、建設、日常的な管理、点検、修繕、設備更新、そして最後には解体。橋とは、仕事の内容も、人の関わり方も違います。
さらに、発電所でも試してみました。発電所では、建設時の労働だけではなく、運転期間中の常駐要員や定期点検などが大きな要素になります。
橋、建物、発電所。必要となる仕事は、かなり違います。
4.それでも、同じ考え方で積み上げられそうだった
対象によって、労働の発生の仕方は違います。しかし、手計算してみると、共通する構造も見えてきました。
必要な仕事を洗い出す
→ それぞれの労働量を考える
→ 人年という共通単位にする
→ 評価期間全体で積み上げる
少なくともモデルケースでは、この考え方を橋以外にも展開できそうでした。この段階で得られた一番大きなものは、具体的な「○○人年」という数字そのものではありません。
「人的労働を積み上げるという考え方は、違う種類のインフラにも使えるかもしれない。」という手応えでした。
5.ただし「正しいHLRが計算できた」わけではない
ここは、明確にしておきます。
初期の手計算では、さまざまな仮定を置いています。資料が十分ではない部分もあります。したがって、この段階で、
「この橋のHLRは○○人年である」
と確定したわけではありません。
目的は、精密な答えを出すことではなく、そもそもHLRという物差しが成立しそうなのかを試すことでした。まずは、プロトタイプとして計算してみた段階だったのです。
6.計算したからこそ、問題が見えてきた
そして、実際に手を動かしてみると、別の問題が次々に出てきました。例えば、
「どこまでの仕事をHLRに含めるのか?」
「設計や発注側の仕事はどう扱う?」
「何年ごとに修繕すると考える?」
「同じ対象でも、条件を変えたら結果はどうなる?」
「別の人が計算しても同じ結果になるのか?」
最初に考えていたより、決めなければならないことが多かったのです。
しかし、これは失敗ではありませんでした。むしろ、手計算してみたからこそ、HLRを実際の評価指標にするために解決すべき課題が見えてきました。
ここが、今回の記事のもう一つの重要なポイントです。
7.「使えそう」から、「使える仕組み」へ
橋、建物、発電所を手計算してみて、「労働を積み上げる」という基本的な考え方は使えそうだ。
という感触は得られました。
しかし同時に、「使えそうな考え方」と「誰でも使える評価指標」は全く違う。
ということも見えてきました。
手計算なら、自分の頭の中にある前提を使って計算できます。では、それを他の人でも計算できるようにするには、どうすればいいのか。
ここから、現在のHLR Engineにつながる試行錯誤が始まっていきます。

コメント