橋を造るとき、「いくらかかるか」は計算する
地方の道路に、川を渡るための橋を造る場面を想像してください。長さは50mほど、ごく普通の道路橋です。
この橋を造るには、まずコンクリートがどれだけ必要か、鉄筋や鋼材はどの程度いるか、重機を何日使うか、どの作業に何人を配置するか——こうした必要なものを一つひとつ積み上げて、全体の工事費を求めます。これが「積算」です。
必要なものを一つずつ数えて、足し合わせて、全体を求める。積算とは、そういう考え方です。
では、この橋に「人の労働」はどれだけ必要なのか?
ところで、橋は造って終わりではありません。完成後も、定期的に点検する必要があります。傷んだ舗装を補修する必要があります。鋼材の塗装を塗り替える必要があります。大規模な修繕が必要になることもあります。そして数十年後には、大がかりな改修や架け替えの時期が来るかもしれません。
それぞれの仕事に、人(労働力)が必要になります。
では、この橋を造り、100年間使い続けるとしたら——全部でどれくらいの「人の労働」が必要なのでしょうか。
この問いが、今回の話の出発点です。
お金だけでなく、「人」も限られた資源になる
これまでインフラを考えるとき、いくらで造れるか・維持費はいくらか・更新費はいくらかという「お金」が重要な制約でした。
しかし人口減少・労働力減少が続けば、お金を用意できても、実際に点検したり、直したり、造り替えたりする人が足りないという問題が大きくなります。
お金は借りることも、集めることもできます。しかし人の働く時間は、どこからも借りてくることができません。資源として有限であることは、お金と変わらない——むしろ補充がより難しい資源です。
だからこそ、「円」とは別に、必要となる人的労働そのものを測る物差しが必要ではないか。そう考えるようになりました。
そこで考えているのがHLR
私が考えているのが、HLR(Human Labor Requirement/人的労働必要量)という指標です。
難しい定義を並べるより、一言で表すなら、HLRは「労働力の積算」です。
工事費の積算では、材料費・機械費・人件費などを積み上げて「円」という単位で合計を出します。HLRでは、建設する・点検する・補修する・更新する・最後に廃止するといった一連の仕事に必要な労働量を積み上げます。「お金の積算」から「人の労働の積算」へ、視点を広げる試みです。
今回はまず、「HLRとは労働力の積算である」ということを理解していただければ十分です。
この50mの橋を、これから何度も使う
この連載では、しばらくこの「地方にある50mほどの橋」を例に、HLRについて考えていきたいと思います。
ただ実際に計算しようとすると、すぐに疑問が浮かんできます。何を「労働」として数えるのか。何年間で考えるのか。1人と1人年は何が違うのか。どんな資料を根拠にするのか。橋が100本あったらどう考えるのか——「労働力を積算する」という考え方は一見シンプルに見えて、具体的に計算しようとすると難しさが出てきます。
そして実際にHLRを計算する仕組みを考え始めて、最初に気になったことがありました。同じ50mの橋を、同じ条件で計算したのに、計算するたびに答えが変わったらどうするのか——という問いです。次回は、HLRで最初に重視した「同じ条件なら、同じ答えが出ること」について考えます。

コメント